Clinical Organizational Science: an integrative framework for structural intervention in complex organizations
概要
組織変革の取り組みは、リーダーシップ研修・組織開発・構造再編に多大な投資が行われているにもかかわらず、定着に失敗するケースが繰り返し報告されている。本論文は、この再現的な失敗パターンを「組織の安定性は受動的な惰性ではなく、相互作用構造の再帰的な再生産によって能動的に維持されている」と再定式化することから出発する。
そのうえで、複雑系科学・神経科学・組織心理学・行動科学を統合する理論枠組みとして 臨床組織科学(Clinical Organizational Science:COS) を提案する。COSは、組織変革を「行動変容プロジェクト」ではなく「構造的介入の問題」として再定位する。
提案する三つの介入技法
COSは、相互に依存する三層の介入技法から構成される:
- 場の勾配理論(Field Gradient Theory) — Lewinの場の理論とSimmelの三者関係論を基盤に、2-on-1のコミュニケーション構造によって既存アトラクターに摂動を加える
- ループ変換設計(Loop Conversion Design) — サイバネティクスの知見を応用し、自己増幅的な負のフィードバックループを、自己制御的な構造に変換する(実装:3Good1More)
- 神経基盤設計(Neural Base Design) — Kandelの神経可塑性理論とFoggの行動設計を基盤に、日次・週次・月次のリズム設計を通じて、習慣化された行動的入力を組織に埋め込む
これら三技法は階層的アーキテクチャをなしており、神経基盤設計が他の二技法の前提条件として機能する点が、本フレームワークの重要な構造的主張である。
創発の橋(emergence bridge)
COSの中核理論として、個人レベルの行動習慣化が、相互作用を経て組織レベルのアトラクター遷移へと創発的に集約される多層メカニズムを提示する。これにより、「なぜ個人の行動変容だけでは組織は変わらないのか」「逆に、構造設計によって組織アトラクターを動かすには何が必要か」という問いに、理論的な回答を与えている。
倫理的ガバナンス
神経科学の知見を組織介入に応用するにあたり、自律性・透明性・参加・撤回可能性の四原則からなる倫理的ガバナンスの枠組みを併せて提示している。組織介入における神経科学の責任ある統合のモデルとして位置づけられる。
引用情報
Yamanaka, M., & Nakamori, M. (2026). Clinical Organizational Science: an integrative framework for structural intervention in complex organizations. Frontiers in Psychology, 17, 1827324. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1827324